JAPAN TRAK2018その③
日本での補聴器満足度は38%で、ヨーロッパ諸国の半分程度になっています。
満足度が低いことのもう一つの理由は…。
未熟なフィッターが多いことと関係してくるのですが、お客様へのしっかりした説明ができないために、お客様が補聴器に対して過度な期待をしてしまっていることです。
このホームページの「きこえについて」の箇所で書きましたが、お客様の耳のきこえの状況が把握できれば、補聴器を装用してのきこえの目標が設定できます。その目標は、決して何でも聞き取れるということではありません。
お客様の耳のきこえの状況を把握するには、語音聴力測定が必須となります。
補聴器をしない裸耳での語音測定と補聴器を装用しての語音測定の両方が必要です。
これが、70代後半から80代に入ってくると。
補聴器を着けるということだけで結構苦労する方が多く、慣れるまでも時間がかかってしまいます。
80代後半から90代で初めて補聴器をという方は、練習して自分で補聴器を着けられるようになる方もいますが、自分で着けるということは、あきらめなければならないことも多いです。
最初から70点のきこえにすることは難しいですが、補聴器装用を開始したばかりのころは50点のきこえだとしても、70点を目指して調整していくことを説明し、一ヶ月後に60点、二か月後に65点、三か月後に70点のきこえになれば、ある程度は満足していただけるのではないでしょうか。
ところが、70点を本来の目標とするお客様に対して、そのことを告げないでいると、ほとんどのお客様(及びそのご家族の方)は、補聴器を着ければ何でも聞こえる(聞き取れる)と思いこんでいます。
つまり補聴器で100点のきこえが得られると…。
そして、上手く調整して70点のきこえが得られたとしても、100点取れると思っているお客様は70点のきこえでは満足することはありません。
同じ70点のきこえでも、目標は70点で納得されている方は、「70点取れるようになった」という気持ちで補聴器を使っていただいています。
100点のきこえになるはずと思っている方は「まだ70点のきこえにしかならない」という気持ちで会話をしています。
同じ70点のきこえでも聞こうとする意欲が違い、結果的に聞き取れる内容にも違いが出てくるのではないでしょうか。
そういう2つの理由で補聴器に満足しない方が多く、それを口に出して周りの方に言うことになりますので、難聴になってきた補聴器未経験の方々にも「補聴器ってダメらしいね」という風潮が広がり、補聴器を使ってみようという方がなかなか増えない原因の一つになっているのではと思います。
JAPAN TRAK2018その②
ジャパントラックでは、補聴器使用者に対して補聴器の満足度についての調査も行っています。
補聴器の満足度を7段階に分けて
①大変満足、②満足、③やや満足
④ふつう
⑤やや不満、⑥不満、⑦大変不満
のどこに自分が当てはまるか。
満足・不満結果は、
①~③の満足が38%ある反面
⑤~⑦の不満も34%です。
この数字も2012年、2015年と比較して進歩はしていません。
ヨーロッパでは満足度が低い国でも70%は超えていて、80%を超えている国がいくつもあります。
この満足度が低いことと、難聴を自覚しているのに補聴器を使わない方が85%以上になっていることは、大きく関連しているのではないでしょうか
これはあくまで個人的な意見ですが、満足度が低い理由は、大きく2つあると思います。
一つは補聴器を販売したり調整を行う人、つまりフィッターに未熟な人が多いために、しっかりした調整が行えていないこと。
補聴器が販売されている多くの国では、フィッターになるには資格が必要です。
日本では、その資格制度がありません。
「認定補聴器技能者」という資格はありますが、まだ公的な資格ではありませんし、その資格など持っていなくとも補聴器を販売することは可能です。
店舗に一人、医療機器の販売管理者がいて、経験(補聴器の知識がそれほどなくても医療機器販売管理者になることは可能です。)
店が都道府県(実際は管轄の保健所)に管理医療機器販売業届を行っていれば、その店の誰でもが補聴器を販売することができます。
店によっては、「私が補聴器を販売するの?」と自分でも技術不足や知識不足を認識しているにも関わらず、店の都合で仕方なく補聴器販売を担当させられている人を何度か見たことがあります。
知識を貯めこんだだけで上手くいく世界ではありませんが、最低限の知識は持っていてほしいものです。
ですが、それを持っていない人が多いのも事実です。
最初から経験豊富なフィッターはいませんので、勉強はしていても経験不足が理由で上手くフィッティングできないのは、専門ある面では仕方ないのかもしれません。(ただし、プロのフィッターとしては いつまでもそんな言い訳はできませんし、装用者にとっては仕方ないでは済まされないことだとは思います。)
ただ、経験が足りないだけのフィッターであれば、経験を積むごとに、100%とはいきませんが、ある程度満足していただけるような対応は、徐々にできるようになるはずです。
残念なのは、向上心がなくフィッターとは呼べないような方も補聴器を販売していることです。
そのような販売員は、お客様が満足できるような対応は難しいと思います。
それがお客様の満足度が低い一つ目に考えられる理由です。
長くなりましたので、もう一つの理由についてはまた次回にしたいと思います。
JAPAN Trak 2018その①
日本ジャパントラックというのは、日本補聴器工業会が主体となって行う補聴器や聞こえについての様々なアンケート調査です。
欧米では既に行われていた調査を日本でも2012年と2015年に行ってきました。
そして3回目の2018年の結果が昨年末に公開されました。
多くの質問がありますので、ここでは主なものだけを紹介します。
まず、調査は年齢や性別のバランス、地域の分散などが日本の全人口を反映するように割り当てられた中から、13,710人の回答を得られています。
そこから推定されている数字ですが。
日本では、自分で難聴を自覚している人(おそらく難聴だろうと思っている人を含む)が11.3%で、この数字は1~2回目の調査結果とほとんど変わっていません。
また、諸外国と比較しても大きな差はありません。
ただ、難聴と思っている人にのみに質問した結果が…。
あなたは補聴器を持っていますか?という質問に対して、「ハイ」と答えた人は14.4%。この数字も1~2回目の時と変わっていません。
つまり、補聴器の普及は進んでいないということ。
ヨーロッパでは40%を超えている国が多く、しかも調査する度に増加しています。
比較的低い数字のアメリカでも30%を超えており、日本ではその半分にも達していません。
日本の補聴器業界の努力不足や補聴器に対する偏見などが関係していると思います。
ヨーロッパの数字より低いことは予想していましたが、2015年の結果と比較して変化がないということに少しショックを感じています。
他に満足度などの結果が出ていますので、そちらについてはまた次回に。
テレコイル
先日、大きな失敗をしてお客様にご迷惑をかけてしまいました。
そのお客様にお薦めした補聴器が、お客様にとって必要な機能を満たしていませんでした。
その機能が「テレコイル」。
以前のアナログ耳かけ型補聴器には、全てといっていいくらい付いている機能でした。
現在のデジタル補聴器でも耳かけ型であればほとんど付いている機能です。
小型の補聴器には付いていないのもありますが、今回の補聴器には付いているものと…。
どんな時に使う機能かというと、電話機が黒電話だった時代に、電話で会話する場合に補聴器をT(テレコイル)モードにすると、電話相手の声が良く聞こえました。
黒電話の受話器に内蔵されていた誘導コイルからの漏洩磁束(漏れ出している磁気)に音声の成分があり、その磁束をテレコイルで補聴器に取り込み、音声に変換して聞かせるというものです。
現在の固定電話には漏洩磁束がほとんど無く、テレコイルは役に立たないのですが、一部の携帯電話にはTモードで聞くと聞きやすくなるものがあるようです。
また最近の劇場やホールなどでは、床下にヒアリングループが這わせてあり、ステージ上の声が補聴器のTモードで聞きやすくなるというところがあります。会場全体でという場合もあるでしょうが、指定された一定の座席でテレコイルが使用できる会場もあるようです。
また、もっと小規模の公民館や、福祉会館、市民集会所のようなところでは、携帯用ヒアリングループがロッカーなどに置いてあり、難聴者の集会などで使用できるようにしている施設もあります。
今回のお客様はそのような集会によく参加される方で、ヒアリングループを介して檀上の方の声を、Tモードで聞く機会が多いというのを私は知っていたにもかかわらず、テレコイルが付いていない補聴器を薦めてしまったということになります。
最終的にはテレコイル機能が使えるようにしてお渡しすることができるということが分かったのですが、反省しなければならない応対でした。
差別解消条例(東京都)
6月26日のこの欄で、障害者差別解消法について少しだけ触れました。
と言っても、触れたかどうだか分からない程度でしたが。
差別2016年4月1日に施行されたのが国の法律で『 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 』長いので障害者差別解消と呼ばれています。
この法律には大きな柱が2つあって、それは
①不当な差別的取扱いの禁止
②合理的配慮の提供
①は行政機関や事業所、お店などで禁止されています。
例えば、車いすの方の参加をお断りするとか、耳が聞こえないことを理由にアパートを貸さない、盲導犬を連れた目の不自由な方の入店を断るなど、そういうことはしてはいけませんということです。
②は行政機関など公的な場所では義務としていますが、一般の事業所や店では義務ではなく、できるだけ努力しなさいということになっています。
例えば公的な場所では、階段など段差がある場合はエレベーターやスロープを設けるのが望ましいのですが、費用面等でその設置が難しいとしても、車いすの方がいらっしゃった場合は、職員が対応して誘導することや、聞こえない方の受付業務を行うために手話通訳者を常駐させることは難しくても、筆談するための器具をそろえておくなど、そういうことが求められています。
先日ご紹介しました遠隔手話通訳を利用するところが増えているのも、差別解消法が大きく関係しています。
ただ、民間事業者は努力義務になっているだけで、“やりなさい”ということにはなっていません。
そこが東京都の条例と違います。
「障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例」今年の10月1日に施行された東京都の差別解消条例です。
この条例では、不当な差別的取扱いの禁止については国の法律と同じですが、合理的配慮の提供については国の法律と違い、行政機関だけではなく、民間事業者にも義務としています。
一般のお店や会社でも、差別をしなければいいということではなく、“配慮をしないことは差別をしているのと同じ”という考えを持つ必要があります。
パンフレットやリーフレットなど詳細は、下記の東京都福祉保健局のホームページで確認することができます。
≪東京都福祉保健局のホームページはこちら≫
遠隔手話サポート
最近、遠隔手話サポートを導入している店舗や会社が増えてきています。
携帯電話ショップ、観光案内所、銀行、カード会社、ホテル、駅、空港などのカウンターや総合受付、総合案内所などに、聞こえないお客様がいらっしゃった時、お客様と手話が分からないスタッフの間に入って、テレビ電話で手話通訳を行うサポートです。
役所でもタブレット端末を置いて対応しているところが増えているようです。
自前で専門の手話通訳スタッフをそろえていてその通訳者が対応する会社もあれば、遠隔サポート専門の会社と契約し、そのシステムを導入している会社もあります。
筆談では上手く伝わらなかったり、時間がかかったりしますので、お客様にとっても、カウンター等で対応するスタッフにとっても、メリットは大きいと思います。
ただ、そこで通訳を行っている通訳者にとっては、画面上で聞こえない方の顔とか手話しか見えないわけですから、周りの情報が得られず、現場で対面での通訳と比較すれば、通訳がスムーズにいかないことも出てくるのかもしれません。
そこを理解しておくことは必要だと思います。
電話リレーサービス
皆さんは電話リレーサービスをご存知でしょうか?
耳の不自由な方が電話をかける場合に、手話や文字を中継所で音声にして電話相手に伝えてくれるものです。
もちろん電話相手の声は手話や文字に換えて伝えてもらえます。
日本では2011年に始まったサービスで、徐々に広まってきてはいますが、まだ、いつでも誰でもが使えるサービスではありません。
主要先進国では、日本が一番遅れているといえるでしょう。
多くの国では公的なインフラの一部として整備されているので24時間対応です。
日本では、夜間の対応はできていません。また現在は、使用できるのは、事前に登録をしている方に限られます。
予算の問題が大きいのでしょうが、それが確保できたとしても、手話通訳者の数が足りないという問題もあります。
それでも、少しずつ便利になっているのは事実で、このサ-ビスで様々な問い合わせを行ったり、電話でできる手続きであれば、このサービスを使って行うことができますし、何かを注文したり、レストランの予約なども可能です。
ただ、時々電話先の相手から(保険会社やカード会社など)「今電話されているのは○○様ご本人ですか?」と聞かれることがあります。
このような時にリレーの担当者は、「私は手話通訳者です。」と答えますので、そうすると、「ご本人でなければお話しすることはできません」と必要な手続きをやってもらえない場合もあります。
公的なインフラとして整備され、このシステムが広く認知されるようになり、このサービスが信頼されるようになれば、こんな問題もなくなってくるのではないでしょうか。
また、本来はそのような使い方は想定されていなかったのでしょうが、山や海で遭難された方がこのシステムを利用して救助を依頼し、命が助かったということも起こっています。
そんな使い方は、しなくて良いのであればそれが一番良いのですが、『いつでも誰でも…』が早く実現することを願っています。
補聴器世界6大メーカー
補聴器メーカーには世界6大メーカーといわれているものがあって、
世界中の補聴器の90%以上がそれらのメーカーのものになっています。
補聴器の音質、性能や技術的な高低をここで判断することは出来ませんが、それぞれのメーカーごとに特徴があります。
また、単に補聴器の聞こえのみではなく、各種ワイヤレス機器などにより、テレビやオーディオ機器からの音を補聴器で直接聞いたり、あるいは中継器を使用して聞くことが出来る器種もあります。
それから、携帯電話の相手の声を無線で飛ばして補聴器で聞くことや、スマ–トホンと補聴器を連携させて電話の会話音声だけではなく、音楽や動画の音声なども補聴器で直接聞くことが出来るものもあります。
聞こえや音質に関係しないと思いますが、防水・撥水・防塵などの機能をもっていて故障しにくくなっている補聴器なども主流になってきています。
メーカーごとの補聴器について、私の主観も混じることがありますが、次回から書きたいと思います。
6大メーカーというのは下のメーカーになります。
会社の規模ではなく世界で販売されている数が多い順番に上から並べます。
ただ、シグニア補聴器のシンバントス株式会社と、ワイデックス補聴器のワイデックス株式会社が合併するという話も出ていますので、今後は勢力図も変わってくるのではないでしょうか。
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・フォナック
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・オーティコン
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・シグニア
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・リサウンド
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・スターキー
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・ワイデックス
デフリンピック②
先日、2017年のデフリンピックで金メダル2個を獲得した山田真樹選手の講演会に参加しました。
山田さんは男子陸上短距離の選手です。
山田選手は200mと400mリレーで金メダルと、400mでも銀メダルを獲得しました。
日本が獲得した金メダルは全部で6個で、山田選手の他は水泳で3個、バレーボールで1個です。
彼は大学生なので今は良いということですが社会人の選手の練習環境などは厳しいようです。
メダル日本でのデフリンピックの注目度は、今はそれほどでもなくてスポンサーも少なく、参加する選手や役員は、費用面で大変苦労をしているようです。
種目によって多少の差はあるようですが、数十万円から百万円くらの自己負担は必要になるということ。
オリンピックやパラリンピックでは、自己負担金など聞いたことがありません。(私が知らないだけであれば、すみません)
ちょっと、上手く言えないというか、上手く書けないかもしれませんが…。
オリンピックについては世界最高レベルの競技を見せてもらうことができます。
パラリンピックの場合は、自然と選手を応援したくなってしまいます。
それでオリンピックやパラリンピックの選手には、スポンサーが付いたり国からの補助金も。
ところがデフリンピックは、見ただけでは障害者に見えない人がやっていて、でもオリンピックのレベルと比較すると…。そういうところが、なかなかスポンサーが増えていかない原因でしょうか。
今、ろう者の間では、2025年のデフリンピックを日本に招致しようとする運動があります。
デフリンピックを広く知ってもらうためには、良いきっかけになるのではないでしょうか。
ただ、同じ年に大阪万博開催が決まったので、そっちに注目が集まってしまうかもしれません。
もしかしたら、招致活動そのものが…。
ろう者自身が運営を行いながら発展してきたデフリンピックは、健常者が介在してくるパラリンピックには馴染めなかったようです。
オリンピックまた、パラリンピック委員会では、手話通訳を介してコミュニケーションを行わなければならないろう者の意見を、あまり聞こうとしなかったとも言われています。
デフリンピック①
デフリンピックという大会があることを皆さんはご存知でしょうか。
聴覚障害者のオリンピックです。
障害者のオリンピックといえば、パラリンピックが有名ですが、それには聴覚障害者は参加していません。
パラリンピックは1960年に第1回大会がローマで開催されました。
その後、国際パラリンピック委員会が正式に発足したのは1989年になります。
パラリンピック一方、国際ろう者スポーツ委員会が運営しているデフリンピックは、1924年から開かれていて、100年近い歴史を持っています。
パラリンピック委員会が発足した時には、一旦はろう者も参加していましたが、6年後には脱退しています。
ろう者自身が運営を行いながら発展してきたデフリンピックは、健常者が介在してくるパラリンピックには馴染めなかったようです。
オリンピックまた、パラリンピック委員会では、手話通訳を介してコミュニケーションを行わなければならないろう者の意見を、あまり聞こうとしなかったとも言われています。